先日、日本の食文化の中でも特にユニークな存在である納豆のパッケージデザインを、中国のクライアントから依頼されました。
この仕事は、単に美しいデザインを作る以上の、文化的なチャレンジに満ちていました。
納豆が持つ「中国市場での位置づけ」という課題
納豆は、日本国内でも「好き嫌い」がはっきり分かれる食材です。しかし、中国市場における位置づけは、さらにシビアな現実を突きつけます。
クライアントによると、中国での一般的な納豆のイメージは、「健康には良いが、美味しくはない」というものだそうです。
健康志向は購買動機になりますが、「美味しくない」というネガティブな要素は、リピートはおろか、最初の「買ってみよう」という気持ちすら削いでしまいます。納豆をこよなく愛し、「毎日食べてもOK」**な私にとって、この認識を変えるパッケージが必要だと痛感しました。



コンセプト:「健康」から「上質な食体験」へ
納豆の最大の障壁である「風味(ニオイやネバつき)」を、デザインで直接解決することはできません。だからこそ、私たちはアピールする視点を変えました。
【デザインの目的】 ネガティブな「健康食品」ではなく、「日本の伝統的で上質な、美しい食品」としての魅力を伝える。
目指したのは、手に取った瞬間に「これは、ただの体に良いだけの食品ではない」と感じさせる、和風で洗練された「ジャケ買い」を促すデザインです。
パッケージで実現した3つのアプローチ
納豆の持つ「和の魅力」と「上質さ」を最大限に引き出すため、以下の要素に注力しました。
- 「和」の抽象化と洗練: 従来の納豆パッケージに見られるような、安価なイメージのフォントや賑やかな装飾を排しました。代わりに、水墨画のような筆のタッチや、繊細な和紙のテクスチャーをモチーフに取り入れ、シンプルでモダンながらも、日本の「侘び寂び」を感じさせるデザインを追求しました。
- 「豆」の美しい表現: 納豆は、発酵によって生命力を得た「大豆」です。パッケージには、大豆そのものの美しさや生命力を感じさせる、品の良いイラストやパターンを使用。発酵食品としての奥深さや、天然の力を連想させます。
- 色彩の戦略: 中国市場で目立ちつつ、品位を保つため、深い藍色(紺色)や渋い抹茶色を基調とし、アクセントカラーとして金色を少量用いました。これにより、健康食品の枠を超えた「プレミアム感」を演出し、「試してみる価値のある贅沢品」という印象を与えます。
「納豆は美味しくない」という先入観を、デザインの力で打ち破りたい。このパッケージが、一人でも多くの人に「日本の納豆、ちょっと試してみようかな」と手を伸ばすきっかけとなり、そして私と同じように納豆の美味しさに気づいてもらえることを願っています。